第二十六章 それぞれの明日へ



 第二十六章 それぞれの明日へ



 ラダトームへ向かうと、喚起の渦だった。
 長い夜から解放されて、朝が来たんだ。会う人会う人すべてが笑顔で、あちこちで祝福の言葉が飛び交っている。
 そんな中を進み、あたし達は城へ上がった。
「お待ちしておりましたよ、みなさん」
 そう口にしながら、柔らかい笑みであたし達を迎えてくれたのはヴェリスさんだった。
「ヴェリスさん!」
 名前を呼んで駆け寄ると、彼はあたしの手をとって目を細めた。
「こうして再び太陽の光を浴びる事ができる日を、信じておりました。
国民達……いえ、この世界にすむ全ての人々、そしてルビス様も、ラシエルも、ジェードも……さぞかし喜んでいる事と思います。本当に、よくやってくださいましたね……」
 感慨深げにそう言われ、強く手を握られた。あたしはその手を握り返して、強く頷く。
「さあ、国王陛下がお待ちです。凱旋の報告を!」
 そしてあたしたちは、彼に導かれるままに謁見の間へと足を進める。そこで待ち受けていたのは、いつも渋い顔をしていた兵士達の、沢山の笑顔。その向こうからは、あたし達の顔を認めた瞬間に玉座より立ち上がったラルス王の姿が見えた。
「勇者様御一行が只今、戻られました!」
 ヴェリスさんが声高に告げるととうとう我慢出来なくなったのか、国王自らこちらへと駆け寄ってくる。
「おお、おお……勇者よ、よくぞゾーマを倒し、このラダトームへ戻った!」
「は……」
 慌てて姿勢を低くしようとしかけたけれど、寸前で腕を取られた。
「いいや、そのままでよい。ラダトーム国王として、いや、このアレフガルドに住む者の一人として心から礼を言うぞ! この国に朝が来たのは全て、そなたらの働きのお陰じゃ!」
 ラルス王は話しながら、感涙に噎ぶ。
「セティオよ、そなたこそ、真の勇者! そなたにはこの国に伝わる勇者の証、ロトの称号を授けよう!」
 称号? 疑問に思ったけれど、それに言葉を挟む隙は無かった。それでも反応しなければと思って頭を下げたら、ラルス王は目を潤ませたまま興奮した様子で先を続ける。
「セティオ……いや、勇者ロトよ! そなたの事はロトの伝説として、未来永劫語り継がれてゆくであろう。さあ、朝を、平和を祝おうではないか!」




◆    ◇    ◆    ◇


 その宴は、アリアハンの時の比では無かった。城は一般解放され、あちらこちらに所狭しと並べられた沢山の料理と酒。身分の違いなど少しも関係なく、 人々は隣り合う人の手を取り合っては踊り、酒を浴び、笑いあう。
 舞い上がる紙吹雪、大きな花火が打ち上げられる光景。宴というよりもう、祭と表現した方が正しいのかも知れない。
 あたしはそれを、唯一ひっそりしていた城の屋上からぼんやりと眺めていた。
夕方になり、ひんやりした空気がそっと、頬を撫でていく。昼に暖められたその空気はとても柔らかく、火照っていた頬にはとても心地のいいものだった。
 ……。
 こんどこそこれで、終われる……ん、だよな?
 宴が進み、夜が近付くに連れて、あたしのなかでは漠然とした不安が沸き起こっていた。アリアハンで宴が催された夜を、思い出してしまったから。あの時も唐突にやって来た。だから今日も唐突に何か、あったら……。そう思うと、今のこの事態を素直に喜ぶ事が出来なかった。
 ため息をつき、手にしていた水を一気に飲み干す。空になったグラスの底。少し残った水に反射する、淡い月の光。ゆらめいて、膝の上に光の影をつくるそれに少し見惚れていたら、
「セティオ」
 振り向かなくてもわかった。声の主は、ロウだ。隣に来たところで顔を上げると、ロウは苦笑まじりに尋ねてくる。
「探した。相変わらず苦手か」
「へへ……。けど、ロウもだろ?」
「まあな」
 思った通りの返事をよこした後、小さくため息をつきながら空を見上げる。それから、ふ……と目を細めて。
「空に月、あると安心するな」
「そうだね。……綺麗」
 あたしも空に視線を移して、思った通りを口にする。その後、胸にある漠然とした不安を消す為に、話題を持ち出してみた。
「これで、ようやく念願の新しい旅ができるね」
「そうだな……。何処から行きたい?」
「ん……やっぱり、ライラの所。ライラとサイシさんがあの後どうなってしまったのか、とか……知りたいし」
「二人の事は俺も気になってた。はじめはミリックバーグで決まりだな」
「うん。あ、後はね……ファスとかシェリーンにも逢いに行きたい。アイリスにも」
「あー……ちょっと待て。なんか思い出の人巡りになってねえ?」
「あははっ、そうだね。やっぱり顔が先に浮かんじゃうや」
 発言に思わず笑ったら、ロウもちょっと笑いながら、
「他には?」
「あとは……そだな。ロウが生まれた国にも行ってみたい」
「俺の?」
「うん。……あ、でも嫌ならいいんだ。ただちょっと、どんな所か知りたかっただけだから」
「別に構わねぇけどな。ただ……ちょっと癖のある国なもんで」
「ん、癖って?」
「基本的に人間の性格が悪ぃんだよ、あの国」
「へえ……」
 じゃあ、ロウの性格が少しひねくれてるのは国民気質なのかな。……思ったけど、口に出すと機嫌を損なう恐れがあったので、言わない。
 ……なんて事を思いながら、見た事も無い場所に思いを馳せた。
 なんか、こういう風に話をするのはとても楽しい。時折声を上げて笑いながら、当初は不安をかき消す為に始めた話題だったと言う事を忘れて時間を過ごしていた。
「楽しそうだねー、盛り上がっちゃってるけど何の話?」
「あ、シエン……マーグも!」
 声を掛けられて振り向くと、二人はニコニコしながらこちらに歩いて来た。
「何だ、お前らまで抜けて来て平気なのか?」
「んー……まぁ別に、僕達がいなくても宴は楽しそうに進んじゃってるからね」
「ふふ……。けれど気が楽よね。アリアハンの時のように祭り上げられたのでは流石にたまらないから」
「そう言う意味では、ルビス様が復活した時のぶちキレロウくんに感謝かな?」
「……はっ、そりゃどうも」
 シエンの発言に笑いあった後、とりあえずテラスの一角を陣取って城下を眺めながら、少し話す。
「こういう風に騒いでるの見てるとさ、やってよかったって思えるね」
手すりから身を乗り出しながら、シエン。
 誰とも無くそれに同意する。
「けどさ、どうしてロトと名乗れなんて言い出したんだろう……」
「ん?」
「ほら……さっきの、ラルス王の話。もともと転生だとか何とかで騒いでたのに、なんか変だよね?称号とかって」
 疑問だったそれを口にしたら、シエンはあ、と口の中で呟いた後、頷いた。
「そうだった。それ、僕もちょっとひっかかったんだけど……」
「その事を提案したのは私です」
 その話題になった時後ろから声がして、あたしたちは一斉に振り向く。そこに立っていたのは、ヴェリスさんだった。彼は理由を話しながら、こちらに近付いてくる。
「名が知れ渡ってしまえば、どこへ行っても暮らしにくくなってしまうでしょう。ですからロトの名で伝説にしてしまえば、セティオである【あなた自身】を注目する人もいなくなるはずです。……あなたたちも英雄としてではなく、静かに暮らしたいでしょう……?」
「それは、そうですね」
「でもさ、ロトの事ってこちらの世界の話でしょ。上なら、別に支障なく生活出来ると思うんだけど」
 そのシエンの発言が出た途端に、何故か沈んでいたヴェリスさんの表情が、ますます曇っていく。
「……ヴェリスさん?」
 その事が気掛かりで、思わず名前を呼んだ。そしたら彼は決意したように一つ頷いて、あたしたちを真直ぐに見た。
「こんな場で、非常に言いにくいのですが……先延ばしにする訳にもいきませんね」
「……?」
「落ち着いて聞いて下さい。実は、地上の世界に通じていた空間の穴が閉まってしまいました」
「え?」
 そう告げられて、すぐには理解する事が出来なかった。それぞれ顔を見合わせてしまう。……背筋は、ざわざわしはじめていた。
「……どう言う、意味……」
「上とアレフガルドをつなぐギアガの大穴は、もともとゾーマの絶大的な魔力でこじ開けられていたモノ。存在してはならない空間のよじれだったのです。故にゾーマが消滅したその時、ギアガの大穴も共に消滅してしまったようなのです」
「……じゃ、こういう事?僕達はもう、二度と上の世界には戻れなくなってしまった……と」
「その通りです。恐らくもう二度と、地上の世界に戻る事は叶わない」
「!」
 告げられた言葉に、酷く動揺した。二度と戻る事が出来ないと言う事は、つまり……もう二度と、アリアハンへは戻れないと言う事……それじゃあ、さっきロウと話した事も、無駄に……?
 漠然としたあの、不安。もしかして、このせいだったのか。
「そっ……か……。なら仕方ないよな。僕は、それでも構わないよ」
 あたしが青ざめているその隣で、そう口にしたのはシエンだ。注目すると、彼は真直ぐにヴェリスさんを見たまま、続きを話す。
「あっちの世界に深い未練は無いし、もともと失う物も無いから」
 そしたら、それに続くようにマーグも、
「私も構わないわ。こうなるかも知れないと言う事は、穴に飛び込む前から予想していた範囲内」
 そんな中で、喰いかかっていくのはロウだった。
「俺は納得しない。何か方法は、ルーラで戻る事は出来ねぇのか?」
「ルーラは私も試してみたのですが、目的地が地上だと発動しませんでした。……完全に、違う世界として別れてしまったようです。ですので、今の所もう、手立ては……もうしわけないのですが」
「……ッ」
「ロウは何か、未練でも」
「俺じゃねぇんだよ。セティオには家族がいるから」
「……ッ」
「そうだ、セティ……ッ」
 その一言であたしはロウの顔を見上げ、二人ははっと顔を見合わせる。
「……。あたし、は……」
 答えかけて、気が付く。三人とも酷く心配そうな顔でこちらを覗き込むようにしているから、……ッ
 決意して、大きく頷く。それから真直ぐにヴェリスさんを見上げて、
「あたしも平気です」
「そんな。本当に良いの?」
 マーグがあたしにぽつりと呟いた。だから、
「いいもなにも、もう二度と戻れないって知ってしまったんだから……今更、ぐちぐち言ってても仕方ないよ」
「セティオ……」
「大丈夫だって。どうせ長い事家を開けてるんだ。こんだけいなかったんじゃ、戻っても戻らなくても同じ、だからさ」
 思い付く限り言い訳して、少し笑ってみせた。そしたら、納得していないような顔にも見えたけれど彼女も、みんなも、その事に関してはもう何も、口にしなかった。それを見届けてから、ヴェリスさんに視線を戻す。
「もともと、二度と帰れないかも知れないと言う事は頭に置いて来ていたので、ある程度覚悟はありました。だから大丈夫です」
「……そうですか」
 答えたら、彼は曇っていた表情を少しだけ安堵の色に変えて、うっすら微笑んだ。
「そう言っていただけてほっとしました。……こちらとしては、恩を仇で返すような事になってしまったので」
「気にしないで下さい。こちらの世界を助けられと言う事は、同じくあちらも助ける事が出来たんだと、思うから。だから、もう……満足です」
「セティオ……」
 名前を呟かれて、……なんだか申し訳なくなった。だってこれは、ヴェリスさんが悪い訳じゃないはずだから……。だから精一杯笑顔を見せて、もう一度頷いてみせた。
 そしたら彼は、ふかぶかと頭を下げてくれた……。




◆    ◇    ◆    ◇


 花の香りが立ち篭めるその場所に、見る影もなく崩れた城があった。
「この場所であの壮絶な戦闘をしたのは、ついこの間なのよね」
 マーグが小さく呟き、あたしたちはそれに頷いた。そして瓦礫の山を見上たまま、立ちすくむ。そんなあたしたちの身体を、髪を、頬を、柔らかい風がさらさらと撫でて行く。
 こんなに暖かく降り注ぐ光に改めて、光を取り戻せたんだと実感する。
 連日続く宴に嫌気がさしたあたしたちは、ヴェリスさんに機会を手引きしてもらい、頃合を計ってラダトームから逃げ出した。そして辿り着いたのはここ、ゾーマの城が建っていたこの場所。
 必ず迎えに来ると、告げたはずだった。けれど父さんを、ここから連れ出す事が出来なかった。今更……それに城が、こうも崩れてしまっていては……掘り返す事なんてもう……。
 だからせめて、お墓を、此処に。
「……」
 無言で進み出て、背負っていた父さんの剣を抜く。そして、瓦礫の前に突き立てた。……墓標の代りだった。そして、黙祷しようと手を重ねかけた、その時。
「あ!」
 唐突に、シエンが声を上げた。
「何……どうしたの、シエン?」
 突然のそれに戸惑いながらも、マーグが尋ねた。そしたら、シエンはこんな提案を持ちかけてくる。
「ね。向こうで少し花をつんで来ないか?このままじゃ、ちょっと殺風景だから」
「お花……、そうね、賛成だわ。賛成だけれど……セティオ、そうしてもいいかしら?」
 伺うように尋ねられて、……別に、断る理由なんて無かった。
「うん、勿論だよ。……ありがとう」
 思わず礼も口にしたら、二人とも小さく笑って
「じゃ、ちょっと行って来るからさ、セティとロウはそこで待ってて」
「分かった」
 シエンとマーグが向こうへ歩いて行ったのを見送った後、あたしは大きなため息をつきつつ、その場所にしゃがみ込んだ。
 剣を突き立てた途端に込み上げて来てた涙、上手い事誤魔化せた。ワンクッション開けてくれたシエンのお陰。息をはいた後にふと、顔を上げる。すぐ前には、瓦礫の山を見つめたまま目を細めているロウがいる。
「……ね」
「……ん?」
 声を掛けたら、視線をあたしに向けて聞き返してくれた。だから、
「まだ、少し信じられないね。ゾーマを倒せた事」
「そうだな。けど、遠のいた意識の向こうで確かにゾーマの断末魔を聞いた。何よりこうして青空の下にいられる事が、成し遂げられた何よりの証拠だろ」
「うん……そうだね」
 ロウのそれに返事を返して、そのまま横になった。それから一度大きく伸びをして、深呼吸する。
「風、気持ちいいねー……」
「そうだな」
「……それにしてもさ、もう二度と、向こうの世界に帰れないだなんて、やっぱり吃驚だよね」
「……ああ」
 返事を聞いて、何故か途端にじわじわと胸の奥に広がってくるなにか。
 もう二度と。
 もう二度と、戻る事は出来ない。
 自分のそれを反芻したらとうとう、空が滲む。それを必至に堪えつつ、空元気を絞り出すようにして先を続ける。
「そうなると、残念だね。折角、約束したの、に……。見てまわりたかった、のに……ね……」
 でもとうとう身体が震えだして、あたしは慌てて両腕を目許に伏せた。嗚咽が漏れそうになったので、必死に唇を噛み締めて。
「――、セティオ」
「ご……ごめん……ッ」
 そしたら、ロウはすっと隣に腰を下ろした。それからあたしの頭に触れて、
「……泣いていい。側にいるから」
「ぅ……ッ、ああ……ッ!」

 大丈夫って、平気だって言ったけれどやっぱり帰りたい……ッ!

 あたしたちは確かに、ゾーマを倒した。
 確かに。アレフガルドは闇から解き放たれた。
 つかの間かもしれないけれど、平和を取り返す事が出来た。
 でもあたしは……もう、家に帰れない。母さんにも、じいちゃんにも逢えない。ライラにも、サイシさんにも、ファスにも、シェリーンにも逢えない。ラーミアにも、戻ったらまっ先に呼ぶって約束したのにもう逢えない。
 父さんも逝ってしまった――ッ!
 時間が戻るなら戻ってほしい。家族に何も言わないで出てきた事が、今になってこんなに、こんなにも悔やまれる事になるなんて。
 父さんから預かった遺言だって、ちゃんと伝えたかったのに……ッ!


 しばらく泣いて、だいぶ気分が落ち着いた。涙もようやく収まったから、照れ隠しも含めて苦笑しながら起き上がり、ロウに言う。
「ありがとう。お陰で少し、スッキリした」
「……。気の効いた言葉一つ掛けられなくて……ごめんな」
 あたしが泣いている間、ずっと。ロウは、何も言わなかった。何も言わなかったけれど、ずっと側にいて、あたしの頭を優しく撫でてくれていた。
「大丈夫。側にいてくれただけで、すごく安心した……」
「ならいいけどな……我慢してないでちゃんと言えよ。場合によっちゃ何も出来ないかも知れないけど、聞くだけならできるし、話さないよりはずっとマシだ。それに……判ってんだろ?」
「自分の中だけに溜めとくと、ろくな事が無い」
 そこで声が揃った。その事に思わず、ふたりして苦笑する。
「んだよ。判ってんじゃねえか」
「ロウの事、見てたから」
「……っそ」
 ロウはそこで、ちょっとふて腐れたようにそっぽを向いてしまった。その姿がおかしくて、少し笑ってしまう。
 二度とアリアハンに戻る事が出来ないのは、やっぱり辛い。けれど、それに負けている訳には行かない。生きてる分には、ちゃんと生きて歩かなきゃいけないんだ。
 ……また泣きたくなるかもしれない。だけど、ロウがいてくれるからきっと、大丈夫……。ちゃんと前を向いて、しっかりしないと。
「戻って来たっぽいな」
「ん」
 顔をあげると、向こうから二人が歩いてくるのが見えた。
「泣いた事、黙っててもらっていいかな……。シエンにもマーグにも、心配かけたく無いから」
「判ってる」
 そんな事をこそこそ話してるうちに、二人がこちらに近付いてくる。
「ごーめんごめん。いっぱい摘んでたらすっかり時間かかっちゃって」
「けど、綺麗でしょう?あちらの方に沢山咲いていたの」
 シエンとマーグが両手一杯に抱えて来たのは、赤や桃色、白の、可憐な花の束。それが思い掛けない花だったので、あたしは思わず声を上げた。
「わあ……それ、コスモス!?」
「お、よく知ってたね。もしかして好き?」
「うん!……ありがとう。この花、母さんも好きだったからきっと、父さん喜んでくれる」
 マーグとシエンからそれぞれ花束を受け取り、改めて墓標代わりに立てた剣の前に立つ。花をそっと供えて、目を細めた。
 こんな形になってしまったけれど……それでも、最後を看取る事が出来て、よかった。諦めが付く、なんて言ったらおかしいかも知れないけれど、でも……この目で、最後を確かめたから。

「どうか、安心してゆっくり眠って下さい……父さん」

 はらはらと舞い上がる花びらに、願う。
 天まで飛んで、届けて。この空気と、光と、……コスモスを。
 そこにいるはずの、父さんまで……。




◆    ◇    ◆    ◇


「さって、これで全て終わった訳だけれど。みんなはこれから、どうする?」
「そうだね……」
 父さんの墓をつくり終え、帰路に付いた時シエンにそう言われて、改めて自覚した。
 あたしたちはもともと、バラモスを倒す為にアリアハンで出逢い、集ったパーティ。目的が変わって少し伸びたけれど、その旅はようやく、終わった。
 この【終わり】はすなわち別れ、あたしたちパーティの解散も、意味している。淋しいけれどこの後生ず~っと、四人一緒って訳にも行かないんだ。だってそれぞれ、やりたい事だってあるんだから……。
「何も無いなら僕は、ここからリムルダールに向かう事にしたいんだけど、いい?」
「あ……もしかして例のおじいちゃんのとこ?」
「そっ。彼結構高齢だったでしょ?だからさ、ほら……、早く行かないとやばい訳なのさ」
 苦笑まじりにシエン。その冗談めいた話し方に皆で笑った後、マーグも、
「それじゃあ私も、ここからマイラへ向かうわ。ここからなら、海を渡れば距離的にもすぐだし」
「マイラ?」
「ええ。実は私マイラの宿の女将さんと仲良くなってしまってね。旅が終わったら顔を見せると約束してしまったの」
「そっか……じゃあ、マーグとは途中まで一緒だね」
「そう言う事になるわね。……ロウはどうするの?」
「俺?……」
 問われ、答えかけてふと、あたしの顔を見るロウ。そこで思わず、頷いた。そしたら、すかさずシエンが口を挟んでくる。
「あれあれ、なにその目配せ」
「もしかして二人でどこかへ行こうって寸法かしら?」
 マーグも怪訝そうに、けど目許を笑わせながら問いつめてくる。
「うん」
 その表情にちょっぴり怯えつつも、素直に頷いた。そしたら、二人は目をまんまるにして顔を見合わせた後、やたら嬉しそうな声をあげる。
「……うっはあ……、本当にそうなのかぁ」
「当初からずぅ~っとやきもきさせられたものねぇ……。長年の苦労が浮かばれて好かったわね、ロウッ?!」
 クスクス笑いながら、茶化すようにロウの背中を力一杯叩くマーグ。
「――ッ!?」
 そしたら物凄い音がして、ロウは勢いで数歩飛ばされ、激しく咽せた。
「うわ……大丈夫?!」
 慌てて駆け寄って、背中をさすってやる。
「ゲホッゲホッ……こ……、殺す気かッ?!」
 まだ咽せているその姿に、マーグはにんまりと微笑む。
「ね、ロウ。これで、セティオを悲しませるような真似をした時の事……判ったわね?」
「……、心底」
「よろしい」
 返事をしたロウに、マーグは満足そうに笑ってウインクしてあげてた。
「あっはっはッ! 姉さん最高だ☆君達、ちゃんと仲良くするんだよ~!」
 爆笑しているのはシエン。最後まで戸惑っていたのは、やっぱりあたし。その後ひとしきりみんなで笑った後、とうとうその時がやって来る。

「それじゃ、名残惜しいけど解散だね」
「ああ。元気で」
「ええ、元気でね!」
「また逢おうな。みんな大好きだぜ!」
「ここまで本当にありがとう!」

 それが、パーティだったあたしたちが最後にかわした会話。
 こうしてあたしたちは、それぞれの道を歩き始めた。
 自分達の進む方向が、光いっぱいの明日だと信じて。

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2006.12.07開設

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Author:愛琳

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