LEVEL:10 時々妙に頑固なのよね  ――3

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   LEVEL:10 時々妙に頑固なのよね  3


 一度ラダトームに戻り体勢を整え、三人は次の目的地を確認する。
 かつてメルキドと呼ばれた城塞都市跡より更に南下した位置にあると言う、孤島。そこには大灯台、と呼ばれる塔が建設されている事が解った。
 竜王の話が確実であれば、その大灯台に五つの紋章の一つが存在している事になる。
 場所を定めた三人は早速出航を決め、現在は海上を進行中だった。
 航海は上々。晴天の心地よい潮風、軋む船体と波音がゆったり流れる甲板でアスは、しかし反するように緊張の眼差しを向けるセシルと対峙していた。
 彼らの手には、それぞれ木刀が握られている。
「い……行くよ」
「いつでも」
 唾を飲むように確認されたそれに答え、アスは静かに木刀を構える。対するセシルは握りを何度も確かめた後、刀身をアスに向けて大きく息を吸った。そして一度息を止め、目標を定め、
「たぁああ――ッ!」
 必要以上に大きな気合いを上げながら走り込んできた。アスはその一撃を正面で受け流し、次に繰り出されるだろう彼の動きを予測して動く。セシルは面白い程その予測通り、力任せに剣を振りかぶって打ち込んでくる。
「脇が甘い! 振りが大きい!」
 一手一手を簡潔に指摘し、アスはセシルの攻撃を受け流し続ける。その動きを攻略しようと、セシルは必死の様だった。
「でぇいッ!」
 弾き飛ばした反動を利用し、セシルは下段から鋭い付きを繰り出して来た。しかし足下がおぼつかない。アスが隙と見て出した足に、セシルはまんまと引っかかった。
「わっ! わ……ッ!」
 悲鳴を上げ、セシルは背中から甲板へ転げ落ちる。
「痛って、――ッ!」
 起き上がりかけたその喉元に、アスは木刀を突きつけた。目前のそれにセシルは息をのみ、アスを見上げて言葉を失う。アスは真顔のまま一言、
「これまで」
 そう告げて木刀を引き、んはー、と力の抜けるため息を吐き出したセシルに手を差し出す。彼は素直にその手を使い、身体を起こして後頭部をぽりぽりとかいた。
「参ったな……予想以上に動けない事が解った」
「そうだな」
「そんなザックリ」
 はっきりした物言いのアスを見上げるセシル。アスはその目を真剣に捉え、
「腕の力のみに任せた振りでは駄目だ。反射神経をフルに使い、合理的に身体を使えるようにする事が一つ」
「うん」
「その為に、まずは基本の正しい型を身体に覚え込ませることが重要だ」
「それは、どうすれば身に付くの」
「素振り、だな。正しい反復運動をする」
「素振り」
「まずは素振り百で様子を見る。型を崩さず、丁寧に振れ」
「……う、解りました」
 体制を整えた後、セシルは数を発声しながら木刀を振り出した。アスは頷いてそれを見届け、ふと視線を感じて振り向いた。そこには見学と称し、空の樽に腰掛けておとなしく様子を見ていたルーナがいる。目が合うと、彼女はその口を開いた。
「剣の道は厳しいものなのね」
 感心したような声色のそれに、アスは僅かに表情を緩めて頷き、
「魔法の道もそうなのだろう」
 そう、尋ねた。ルーナは肩をすくめて苦笑し、
「そうね。魔力と知識、センスだけでは成り立たないもの。この旅を始めて、基礎体力をつける事の重要さも思い知ったわ。最近私、セシルに進められて寝る前に腹筋を始めたのよ」
 まだ全然回数を続けられないのだけれど、そう加えて、ルーナは腹部をさすって笑う。そう言えば就寝前、彼らが交互に足を押さえあって腹筋をしている様子を見た事がある。
「それならば共に背筋も鍛えた方がいい。バランスが取れ、より楽に身体を使えるようになる」
 つい助言をすると、ルーナはきらりと瞳を輝かさせた。
「そうなの。じゃあ、早速今夜から実践してみるわ」
 そして彼女はひざに置いていた手を握り拳に変え、小さく頷く。
「……私だっていつか、腹筋を割ってみせるんだから」
 アスは噴き出しそうになり咳払いでごまかした。背後のセシルは確実に吹き出した――素振りの発声で無かった事にしたようだが。しかし意に介せず、ルーナはやる気満々で気合いを確かめている。
 ……彼女は、たまに男二人で交わす身体作りの話題に触発されてしまったのかもしれない。
 複雑だった。旅を続ける上では強くあって欲しい。しかしトレーニングを進めておいてなんだが、彼女の女性らしいラインが損なわれるのは惜しいと思う。
 一番良いのはそんな事をさせずに済むよう、己の技量を高め備える事なのだが如何せん、敵が強力すぎる。今は、少しでも個々の能力を引き上げ連携していかなければ太刀打ちできない。
(——せめて、彼女の腹筋が割れてしまう前に事を収束させられれば良いのだが)
 アスは真面目に考えつつ、セシルを一瞥。
「腕がぶれている」
「はいー!」
 何を考えていたのだろう、ゆるい苦笑を浮かべていたセシルはビクリと肩を震わせ、表情と姿勢を正して鍛錬に精を出す。

 今のままでは勝てぬだろう、と口にした竜王の言葉。三者三様に噛み締め、今は出来る限りのレベルアップを切実に考えている。
 船はもうすぐ、目的の孤島へ接岸しようとしている。




◆    ◇    ◆    ◇


「――さて。竜王の言葉通り辿り着いた訳だが」
 飛び回るドラゴンフライを縦横無尽に振り払いながら、何故か質問口調でアス。
「来た訳ですが?」
 同じく、慣れないロトの剣で慎重な攻撃を仕掛けつつ、引き継ぐようにセシル。
「マヌーサ! ラリホー! バギ! ああもう担がれたのかしら!」
 魔導師の杖を振り回しながら魔法を連発し、憤慨するルーナ。
 気を抜く、即、全滅の危機!

 アレフガルドより海を南下し、たどり着いた孤島。そこに聳え立つは古びた廃墟の塔――大灯台。三人が訪れたそこは、複雑に入り込んだ魔物の巣窟だった。
 ドラゴンフライの群れをなんとかやり過ごし、物陰に隠れて息を整えた。窓から見える景色から察するに、恐らく中腹程。強力な魔物と息つく暇無く連戦したせいか、疲労が色濃く蓄積している。
「三歩進めば魔物! はぁ……もう、疲れたわよ。一体何処まで上ればその、紋章とやらが手に入るの」
 肩で呼吸し、汗に濡れた髪をうっとおしそうに払いながらルーナ。
「迷宮の攻略をしながら、こうも連続では。流石に身が持たないな」
 まず弱音など吐かないアスでさえ、心労を漏らす程。
「んでも、いい傾向だよね!」
 唐突にそんな事を言うのはやはりセシルか。疑問符を投げる二人に対して、彼は。
「これだけ守りを固めてるって事は、やっぱりここで間違いないんだ。笛の音も返って来ているんだし、宝の相場も天辺が鉄則だしね。もうひと頑張り登ってみよう!」
 人一倍息を切らせて傷だらけな癖に、このプラス思考。そればかりかふふりと微笑んで、ロトの剣を抱え直し歩き出す始末。
「――最近、頼もしいな」
「精神的に、何度救われたかわからないわ」
 意気揚々と先へ進むセシルの背を追いながら、アスとルーナは何となく同意し合う。
 旅を始めた頃はあんなにも頼りなかったセシルだが、ここまで来て随分力をつけたように思う。特にロトの剣を持ってからというもの、その気概は著しく光る。
 時々突拍子もないが、彼はこのパーティの蝶番のような存在だとアスは思う。

 その後も幾度となく魔物との遭遇を重ねながら、三人は塔を確実に攻略して行く。そして事が起こったのは、天井が見えかけた所まで上った、そんな時だった。
「――誰かいる」
 辿り着いたのは、四方を壁に覆われた狭いフロア。そこに、白色のローブをまとった老人が立っていた。何者か、警戒するアスの前で、まるで到着を知っていたかのように、老人はこちらの姿を認めるとうっすら微笑む。その様子にセシルも警戒したのか、探るように声をかけた。
「お爺さん。こんな場所で何をしているんですか」
 その問いに老人は、しわだらけの顔を微笑ませたまま、
「ほっほっほ。何も言わずとも、この爺には分っておりますとも」
 答えにはなっていない返答を返して来た。
「さあ旅の人、ワシについて来なされ。宝のある場所へ案内して差し上げましょうぞ」
 次いでそう話し、有無を言わさぬ様子で奥へと誘うのだった。
 三人は顔を見合わせ、眉をひそめる。
「……怪しいわ」
 小さな声でルーナは最もな事を言う。
「もしかしたらルビス様の使いかもしれない。ここは素直に従った方が良いんじゃないかな」
 そう反論するのはセシルだ。
「私は付いて行かない方が良いと思うわ。怪しさ極まりない。アスはどう思うの」
 判断をふられ、アスは考える。
「俺は概ねルーナと同意見だ。しかし、竜王城での一件もある。セシルの勘を蔑ろには出来ない」
「それは、確かにそうなのだけれど」
 その言葉でルーナも判断に迷いが生じたようだ。柳眉をへの字に曲げて黙り込む。 ふと見れば老人は既に通路奥の階段脇に移動し、柔和な表情のままで待機している。
「とにかく僕は、あのお爺さんを信じてみたい。どうせこの先にはあの階段しかないみたいだし、行くだけ行ってみよう」
「あ、セシル!」
「ほら、二人とも行くよー!」
 言い切ると、セシルはそのままずんずん先に進み始めてしまった。
「あぁもう撤回。最近のセシルはどうしてこんなに行動的なの? 私は、騙されているとしか思えない」
 ルーナは焦れたように息を吐き、黙ったままのアスをじとりと睨みつける。
「アスも、黙っていないで止めたらどう」
「無理だ」
「即答?!」
「ああなったセシルは意思を貫き通す。変な所で頑固だ」
「――ッ、はー……そうなのよね。時々妙に頑固なのよね。でも、最近の貴方もどうかしてる。セシルに甘い!」
 ピッと指差されながら指摘され、アスは一瞬沈黙する。
「そう――だろうか」
「そうよ。前はもっと全力で制止していたわよ。貴方少し変わったわ」
 そう話すルーナは、ジト目ながらも口元が笑っていた。
「とすれば、セシルのせいだ。俺は、あのペースに引き摺られっぱなしだ」
 アスが僅かに肩を竦めると、ルーナはジト目を止めて苦笑する。
「勝てないわよね。私もそうだもの。――あああ、だとしてもよ! 人が良すぎるのは考えものよね」
「まぁ……そこが、セシルの好い所でもあるんだがな」
「だからって極端なのよ!」
「そう苛立つな」
「結末を考えれば苛立たずにはいられないわよ。もし騙されていたのなら、傷付くのは彼自身なのよ! もうッ、彼を騙す奴は最低だわ!」
 苛立ちの矛先はセシルではなく、騙す相手――。彼女のそんな姿勢に、思わず目元を緩めた。
「優しいな、ルーナは」
「はあ? 寝ぼけは寝てる時だけにして!」
 その頬が微かに紅かったのは、錯覚ではないだろう。
「ちょっと二人ともー! 早く来ないとほんとに置いて行かれるぞー!」
 再三にわたるセシルの呼びかけに、二人は会話を止めて彼を追いかけることにする。

 老人に案内されるまま、三人は塔を下っては上る、を繰り返す。その間、不思議と魔物は出てこなかった。セシルの言う、精霊神ルビスの使いというのもあながち間違いではないのかもしれないと思いつつ、警戒は消さない。
 アスは気を引き締め、老人の後ろに続く。
 ややあってたどり着いたのは、塔の天辺にあたる部屋のようだった。フロアすべてを使ったそのただっ広い場所の、ど真ん中。いかにも、なそこに小箱がひとつ、ぽつんと置かれてあった。
「さ、この宝箱の中じゃ。開けてみるがいい」
 老人は箱の横に立ち止ると、それを開けるように示してきた。
「やっぱり明らかに怪しいわ!」
 ルーナが囁きかけてくる。アスも頷く傍らで、
「開けてみなきゃわからないってー」
 セシルは言われるままに進んで箱に手をかけた。そしてふたを開けたその背は一度動きを止め、怪訝な声を上げる。
「あれ、これ空だけど――」
 一時の間。
 次の瞬間、アスは反射的に武器を抜いて走った。空間に殺気が充満したからだ。
「セシル避けろ!」
「ケケケ……! ひっかかったなぁー!」
 アスの警戒と甲高い嘲笑が重なる。
 何処から現れたのか、紫色の小柄な魔物――ルプガナでフェデリカを襲った魔物と同種、グレムリンが数体宙に現れ、セシルへ群がるように襲いかかって行く。
「う、わッ!?」
 アスが駆け込んで振った大金槌、薙ぎ払うすれすれを潜り、セシルは辛うじてこちらに抜けてくる。グレムリン達はひらりと上に飛び上がり、老人の廻りに集まって行った。
「ちぇ、奇襲失敗かぁ。お前らちゃんとやれよー!」
 声と共にボン、と煙を上げ、老人の姿までもがグレムリンに変化する。
「ケケケケ、やっとおいらたちのでばんかとおもうとうれしくって!」
「やっとあばれられるんだもんなー!」
「なー! キキキッ」
 彼らは羽根をパタ付かせ、無邪気にはしゃいだ。その総数四体。
「はしゃぐなー! いいかぁ、オイラたちはここで絶対、ロトの子孫を始末しなきゃいけないんだぞ!」
 老人に変化していた者がリーダーなのだろう、統括するように声をかけると、残りの三体はおとなしくなる。
「言葉を、喋れるの」
 セシルがたまらず、そんな口調で洩らしたそれに、
「ベリアル様に教えてもらった。オイラが一番上手いんだ!」
 グレムリンは得意げに胸を張り、羽をパタ付かせて鼻を鳴らしてみせたりする。見ようによっては愛らしさすら感じさせるその仕草に、アスは嫌な予感しかない。
「言葉がわかるなら、戦う前に話をしない?」
 ――案の定、セシルは一度構えたはずの剣を下ろしてしまった。
「セシル」
 名を呼ぶと、彼はふり向かずに、
「話が通じたら戦わずに済むかもしれないでしょ」
「もう、いい加減にして! そいつら魔物なのよ!」
「でも、感情はある。話せば解ってくれるかもしれないだろ」
 ルーナの言葉も遮り、セシルはグレムリンに歩み寄る。
「言葉がわかるのに戦うしかないなんて勿体ないよ。ね、僕たちは戦わなきゃ駄目なのか?」
「だめー」
「だめー」
「どうしても?」
「だぁめー!」
「お前らを始末しないと、オイラたちがべリアル様に始末されちゃうんだ」
 セシルの問いに、グレムリンたちは口を揃えて拒否する。
「時間の無駄だ」
「アス」
 いつまでたっても動こうとしないセシルに、アスはタイムリミットを切る。
「俺たちも成すべきことを成さなければならない。お前たちを倒して紋章を手に入れ、次へ進む」
「そーこなきゃ!」
「いくぞー!」
 グレムリンたちは好戦的に各々奇声を上げ、待ちかねたとばかりに飛び掛かってきた。始まってしまった戦闘に、セシルは悔しそうに顔を歪めて剣の柄を握りしめる。
 始まってしまえば形勢は明らかだった。グレムリンは何度か戦ったことのある相手。そう手強いわけでもない使い魔たちは、気づけばリーダーを残すのみとなった。
「ご、ごめんー! オイラが悪かったよ。ね、これあげるから見逃して、ねえー」
 セシルが隅に追い詰めたグレムリンは形勢を悟ったのか、慌てて隠し持っていたらしいモノを手のひらに差し出し、命乞いを始める。やはり、と言うか、そこで剣を下げてしまうのがセシルだった。グレムリンの傍に跪き、差し出されたものを見る。
「これは何?」
 そこに乗せられていたのは小さな星形の、不思議に輝く琥珀色の結晶だった。
「わ、わかんないよー。なんか、この塔に落ちてた。な、やるから見逃してー」
「わかった」
「セシル!」
「もう、人を襲ったりしちゃだめだ」
「うんー」
 素直に頷いたグレムリンに、セシルは心底嬉しそうに笑う。そして、差し出された星形の結晶を受け取ろうとしたのだが――。
「ケケケッ! ばーか!」
「うわッ!」
 その瞬間、グレムリンは星形の結晶を投げつけた。反射的に顔をかばったそれを隙と見たか、グレムリンはニヤリと笑んでセシルに飛びかかろうとしたのだが――
「ギャンッ!」
 上がる甲高い悲鳴。背後に回っていたアスの降り上げた大金槌が、その小柄な身体を薙ぎ飛ばしたのだ。
「あ……うぅ……ベリ……アル、さま……――」
 ひく、ひくと何度か痙攣した後、グレムリンは動きを止めて事切れた。悲壮な顔でそれを見届け、セシルは何かを飲み込むように強く目を閉じる。
「――――ごめん」
 それは何へ向けての謝罪なのか。限りなく低く、小さく漏れた。
「……セシル」
 その背に声をかけたのはルーナだ。セシルは少しだけ間を置いて、何とも言えない微妙な笑顔を顔に貼付けながら振り向いた。
「いやぁ……竜王さんの時みたいに上手くはいかなかった。ほんっとごめん」
「貴方は悪くない。騙したあいつらが悪いの」
「怒ってないの」
「別に?」
 首をかしげてルーナ、アスは頷いて肯定する。
「……お人好しだよね」
 あろう事かそんな単語を吐いたりするので、
「セシルには言われたくない」
「貴方には言われたくないわ」
「声揃えなくても」
 セシルは居心地悪そうに苦笑する。そしてふと見た、先程グレムリンに投げつけられた星形の結晶。
「これが、紋章なのかな」
「そうかもしれないわ。なんだか優しい魔力を感じるもの」
 アスはそれをそっと拾い上げ、手に乗せる。グローブ越しに伝わる仄かな暖かさに、少しだけ気持ちが凪ぐのがわかった。
「とりあえず、これで一つかぁ」
「残りは、四つ」
「先は長そうねぇ……」
 ルーナはふぅ、と、大きなため息を吐いた。

 精霊神ルビスの守りを得るために、紋章を探す。
 新たな目的を得た三人の旅は、まだ続く――。




◆    ◇    ◆    ◇


 グラスの水面に浮かぶ月が、吐息の波紋で形を変える。
 視線を上げたそこには音も無く、黄土の巨体を持つ異形の魔物――ベリアルだった。彼はハーゴンの視線を受ける前に、一も二も無く頭を垂れて陳謝する。
「アレフガルドが竜王の守護下に入り、手出しが出来ず――おめおめと帰還し、申し訳も立ちませぬ」
 沈黙。その冷酷な静けさに、べリアルの心音が氷点下まで凍りつく。ハーゴンはゆっくりとグラスを置き、無表情のまま時を氷解する。
「竜王が出しゃばるとは、な。しばらく泳がせておけば良い。破壊神が復活さえすれば、奴とて塵となるのだ」
 声は冷たい、が、咎めるような響きはない。べリアルは強張っていた身体を僅かにほぐし、次の言葉を待つ。
「それで、ロトの末裔共の力は如何程か」
「今は微弱。しかし、成長を伴えばなかなかに手強い相手となるやもしれませぬ。現に、使い魔(グレムリン)程度ではもう、歯が立ちませぬ」
「ふむ……」
 ハーゴンは目を眇め、頬杖を着いてしばし、思案する。やがてその口元を笑みの形に歪め、べリアルを見た。
「私も、王子たちに挨拶してみたくなった」
「まさか、ハーゴン様自ら」
「ふふ……退屈凌ぎには、良い余興となるであろう」
「――はっ」
 頭を垂れるべリアル。
 ハーゴンは唇の端を持ち上げたまま、ゆったりと肘掛にもたれて目を閉じる。

「ロトの絆の崩壊。見物だな……?」

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2006.12.07開設

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Author:愛琳

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