LEVEL:13 ただ――哀れだと思った


   LEVEL:13 ただ――哀れだと思った



 ばさばさと小気味のいい羽音を響かせて、紫の大猿がひらりと降り立つ。
「ご機嫌麗しゅーう、陛下♪」
「バズズか」
 臆することもなく、王は口角を上げる。
「首尾は如何で?」
「お前の要求通り、邪神教徒は増加の一途だ」
「んはーっ。陛下のお力添えには感謝しておりますよー。んでも、いいんで? こんな事して」
「俺様はな、面白そうな事が好きだ。貴様と話している俺様すら滑稽だ」
「ひゃはははっ! 確かに。自分もそう思いますよー」
 バズズはキシシ、と追唱笑いを浮かべる。王は鼻でせせら笑い、
「それより、闘技場に配置する魔物はもういないのか」
 コイツは飽きた、そう加えて檻に裏拳を打つ。巨大格子の向こうには、腐敗臭を漂わせた満身創痍の魔物が、暗がりで眼をギラつかせていた。
「勿論、今回もいい奴を連れてきましたぜー」
 バズズは舌なめずりし、中の魔物を始末する。そして勿体付けながら何かを召喚した。床に描かれた悪魔の陣に現れたのは、獅子を連想させるしなやかな身体と、太い四肢。口元には二本の巨大な牙。ドぎついマゼンタの恐惶だった。
「キラータイガー。別名、地獄の殺し屋ってんです」
 王は上から下から舐めるように見遣り、満足げに笑う。
「ほう……いい面構えだ」
「んーじゃ、引き続きよろしくお願いしますよっと!」
 翼をはためかせ、バズズは闇夜に消えていく。王はそれを見送り、顎髭を扱いて檻の中に眼を向ける。今にも襲い掛かってきそうな気迫に、背筋が悦楽でゾクゾクと疼く。




◆    ◇    ◆    ◇


 辺境の国、デルコンダル。
 地図上では、ローレシアよりほぼ垂直に南下した大陸に存在する。小さい国家だが地下資源が豊富に産出されるため、他国に盗られまいと長い期間鎖国していた。
 そんな国は、現王が即位して変わった。国を開くようになったのだ。良くも悪くも豪胆なその王の元、他四国に引けを取らぬ程急速に発展を続けている国だった。
「ーー妙に詳しいね」
 つらつらと説明するアスの言葉に、感心した様にセシルが呟く。その反応へ逆に疑問符を向けたのはアスだ。
「言っていなかったか。俺の許嫁は、この国の第一王女だ」
「へ、許嫁なんていたの」
「そんな話初めて聞くわよ」
 意外そうな二人の視線に、僅かばかり居心地が悪い。
「どうしてここの王女なの。ロトに縁も所縁もないじゃない!」
 そう尋ねるのは、何故か不満顔のルーナだ。
「簡単だ。デルコンダルがローレシアと友好を結びたがっている。ついでに言えばデルコンダルは地下資源が豊富だろう。相互利益になる故、ローレシアは受け入れた」
「それで、デルコンダルは血の繋がりを得る為に王女を差し出した、と」
「そんな所だ」
「アスは、それでいいの」
「いいも何も。俺に拒否権は無い」
 ずっと以前から決められていた事だ。顔色も変えずに言い切ると、セシルはぼんやり空を仰ぐ。
「はぁ~あ。分かってはいるけれど、自由結婚って夢物語だよねー」
「そうねぇ。私も、国があんな事にならなければフレディ殿下の妻になるはずだったのよね」
「あ。彼なら大丈夫だったんじゃない? ああ見えてなかなかの人材だったし」
「……うーん、潜在的にはそうだったかも知れないけれど、恋愛対象にはできないタイプだわ。あんな、騒がしいのは苦手よ」
 ルーナは色々と想像を膨らませたのか、次第に渋面になっていく。その移り変わりがあまりにも露骨だったので、アスもセシルもつい笑ってしまう。
「なによぅ、笑うことないじゃない。そんなのより、セシルにはいないの?」
「ん、僕? 幸い、僕には今のところないよー。いつ降って湧くかはわからないけどね」
「そうなの」
 セシルの返答に、渋面だったルーナは少しだけ、笑みを取り戻したようだった。
「そろそろ行くぞ」
「おっと、そうだねー。いざ、デルコンダル!」
 そうして、三人はデルコンダル城へ足を運ぶ。




◆    ◇    ◆    ◇


 城門を抜けると、そこには目を疑いたくなるような光景が広がっていた。
 まっすぐ伸びる石畳の道。その先に鎮座するのは王宮ではなかったのだ。回廊に囲まれた中央部に設置されているのは、闘技場。
 王城とは思えぬ造りだった。さらには、すれ違う国民の半数があの、邪神の白いローブを纏っている。
 三者三様口を閉ざしながら、衛兵に案内されて回廊を抜け、謁見の間へと案内される。
 そして、更に。謁見の間に入り、一行はますます目を疑う光景に遭遇する。
 まず鼻に付いたのはアルコールの香り。そして下品な複数の笑い声。奥を覗けば、薄絹を纏った美女を何人も侍らせ、どっかりと玉座に腰を据えている巨漢。頭上にはゴテゴテと宝石を盛り付けた王冠を戴いている。品位を疑いたくなるようなその男こそ、デルコンダル王その人だった。
 王は一行を認めると口髭に触れながら眼を細め、恭しく礼を取る此方を値踏みするように見据えてくる。
「よくぞ参った、ローレシアのアスティア王子」
「御意に適い、光栄の至りと存じ上げる」
 冷静に洗練された礼を取るアスに続き、やや空気に飲まれ引き気味のセシルとルーナが続く。
「同じくロト第二国家サマルトリア王子、セシル・レオン・リリスレイ。初に御目に掛かります」
「……私は、ルナフィーリアと」
「その名には聞き覚えがあるぞ。確かロト第三国家ムーンブルク。第一王女の名がそれだ」
 ルーナは目を伏せ、それを肯定とする。
「なるほど。噂に違わぬ美しさよの」
 王はルーナを舐めるように見遣ったのち、視線をアスに戻す。
「聞き及んでおるぞ。そなたは今、ハーゴン討伐に赴いているとか」
「僭越ながら」
「して、ここに参ったのは挨拶の為などではなかろう。何故か」
「率直に申し上げます。月の紋章をお譲り願いたい」
「月の紋章?」
「人づてに、こちらに伝わっていると聞きました故」
「確かに、かの月の宝玉は我が国に伝わっておる。しかし何故、そのようなモノを欲する」
「大神官ハーゴンを打ち倒す為、聖霊神ルビスの力を御借りせねばならない。その為には、紋章を五つ揃えなければならぬのだと。――大義の為、何卒」
 アスが頭を下げるのに合わせ、セシルとルーナも同様に姿勢を低くして頭を下げる。その体制でやや沈黙が落ちた後、王は口角を上げた。
「ならばひとつ、俺様を楽しませてはくれぬか」
「と、申されますと」
「アスティア王子には、俺様のペットと戦ってもらう。見事仕留める事が出来たのなら、快く月の紋章を譲ろう。――だが、そちが負けた場合はルナフィーリア姫を頂く」
 三者三様、はじかれたように顔を上げる。
「国宝を譲るのじゃ。それ位の賭け対象でなければつまらぬ。姫はどうせ、もう戻る国も無かろう?」
「――ッ」
 サッと青ざめるルーナを尻目に、王は饒舌だった。
「姫が拒むならセシル王子でも構わぬ。俺様はなぁ、強い者が大好きなのじゃ。それと同じ位」
「やん」
 王は傍らの女を抱き寄せ、ねっとり絡み付くような指付きでその顎をなぞる。そして、
「美しい者が好きだ。男女問わず――な」
「いいですよ。僕でも」
 ルーナを庇うよう背にして、セシルが前に出た。
「セシルッ?」
「そうでもしなければ話は進まないでしょ。だーいじょうぶ、君には指一本触れさせない。そうだよね、アス」
 有無を言わせない早口でルーナを宥め、アスに同意を求める。信じている、と言わんばかりに強い視線だった。受けたアスは頷き、改めて王に向き直った。
「承知」
 下された決定に、王は満足そうに頷いた。
「ならば夕刻、我が国自慢の闘技場で。アスティア王子、そなたの力を見せよ!」


2へつづく
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