LEVEL:13 ただ――哀れだと思った 2

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   LEVEL:13 ただ――哀れだと思った 2



 謁見は昼。夕刻までの余暇を、三人は控えとして与えられた部屋で過ごしていた。
「とんでもないわね!」
 ルーナは毛をピリピリと逆立たせて怒りに吠える。
「確かに。他の王族とは大分違う」
 口元に拳を当て、セシルは真顔で同意する。
「冷静に言わないで! 貴方、もしもの場合はどうするのっ」
「もしもは無いよ。アスが負けると思う?」
 けろりと出たその一言で、ルーナの顔にすっと落ち着きが戻る。
「……それもそうね」
「凄い信頼だな。光栄だが重圧だ」
 装備を確かめていたアスが苦笑交じりに言うと、セシルは吹き出した。
「それにしても男女問わず、だなんて物好きだよねー。ルーナは解るんだけど、何で僕指名?」
 そこが疑問だったのか、セシルは首を傾げて問うてくる。それにはルーナが頷いて、
「セシルにはどこか中世的な感じもあるわ。それがいいのではないかしら」
 セシルは心底嫌そうに眉を潜め、盛大な溜め息を吐き出した。
「あーあ。髭伸ばそうかな」
「無理して背伸びしているだけ、と捉えられる可能盛大よ」
 断言され、セシルはますます落胆する。そのタイミングで、しばらく考えるような素振りで黙っていたアスが口を開いた。
「つまり。容姿端麗な二人に挟まれた俺は、両手に華状態と言う訳か。幸運だな?」
「ぷっ。そう言う事を突然、冷静に言わないで」
 表情と台詞のギャップにたまらず吹き出したルーナ。がっくりと肩を落として情けない声を上げるのはセシルだ。
「だから容姿端麗とか言われてもぜんっぜん嬉しくないんだって」
「何故?」
「こう言う事があるからだ!」
「そうか。大変だな」
「二人とも人事だと思って軽く済ませないでもらえるッ?」
「実際人事だからな」
「むかつく。アスはいいよなー。どっから見てもがっちり男前だから変な目で見られないし!」
「ただただむさ苦しいだけだ」
「僕の目から見れば憧れなんだよ。上背あるし!」
「賞賛、身に余る」
 照れたそぶりも無く薄く笑むだけのアス。
「あーもう、本気でその余裕がむかつく!」
 憤慨したのかセシルは背を向け、それはそれは漢らしく茶を一気に飲み干した。ルーナは笑いが止まらないらしい。むせた。
「ともかく。俺の責任は重大だな。二人には指一本、触れさせはしない」
 和やかな空気を一変させる気合で、目に力を宿すアス。
 夕刻が迫る。



◆    ◇    ◆    ◇


 夕景が見事だった。雲ひとつない空に、翳った日が背で皓々と燃えている。
 高い壁がグルリと覆う、円形の闘技場。集められた観衆の騒めきに晒されたその中央で、アスはその時を待っていた。
 長く伸びた己の影の先には、ダークレッドのビロード幕を掛けられた巨大な檻。その中から発せられている異常な質の殺気に、此方も否応無く闘牙が漲る。
 無意識に大金槌の握りを確かめた。すっかり馴染んだこれは、確かな重量で神経を高揚させる。
 極限の状態で待機する事幾許か。やがて、王が貴賓席に現れた。視線をそちらに上げれば、その傍らにセシルとルーナの姿も確認できた。
 王はスッと両手を挙げ、観衆を黙らせる。
「各々、我が自慢の闘技場によくぞ参った! 今宵の挑戦者は、かの有名な勇者ロトの末裔、ローレシアのアスティア王子!」
 観衆は、思いもかけぬ挑戦者に騒めき立ったようだ。
「対するは地獄の殺し屋、キラータイガーだ! 此奴を撃破出来た者は未だ皆無。ルールなど無用! さあ、命懸けの殺し合いを楽しむが良い!」
 開会が宣言されると、兵士たちが柵を上げて方々に散る。幕が宙へ翻り、待ちかねていたとばかりに飛び出して来たのは、どぎついマゼンタの毛皮を持つ巨大な魔物だった。
 飢えているのか眼はギラつき血走っており、巨大な牙には涎が滴っている。太くどっしりとした足には鋭い爪、切り刻まれでもしたら唯では済まないだろう。
 キラータイガーは尾を立て、ゆらりと歩を進めながら威嚇してくる。
 アスはゴーグルを引き下げ、低く構えた。如何にして攻略するか。全身で伺いながら間合いをはかる。
 以前ラダトームで戦ったサーベルタイガーに似てはいる。が、その能力は桁違いに此方が上だと推測できる。
 やがて、先に痺れを切らしたのは向こうだった。姿勢を低くしたのち、足音無く脅威のバネで跳躍する。
 盾で防いだ牙の一撃、爪の二撃。素早さの上に力も強い。三撃目で予測を超えた前脚がアスの額を捉えた。爪にかかり割れ飛んだゴーグルが宙を舞う。
 アスはステップバックし、頭を軽く振る。ツウ、と血が顔の上を伝っていく感覚。この程度は日常だ。
 アスは大金槌を構え直す。長引けば確実に喰われると悟った。――ならば。
 アスは、攻撃終わりに余裕の息を抜いたキラータイガーの懐に疾走する。虚を突かれ、一瞬動きを止めたその隙を逃さなかった。軸の後ろ脚を力任せに薙ぎ払えば、その身体はバランスを崩して傾く。アスは振り向きざまに顎先へと大金槌を振り上げた。打撲の鈍い音、衝撃に右の牙が折れ飛ぶ。
 キラータイガーは悶絶して転げ回った。アスは容赦なく頭を狙い大金槌を振り下ろす。角度を変え何度も執拗に。動きを失い痙攣し始めた頃合い、とどめの一撃を脳天に打ち込んだ。
 アスは潰した頭部に大金槌を突き立てたまま、眼光烱々に貴賓席を睨む。その額からは止め処なく紅い筋が痕を残し、首を伝い落ちたまま。
 そしてジワリと、キラータイガーの頭部だった場所から血が滲み広がっていく。
 いつの間にか、あの嵐のような観衆の声は消えていた。
「当方の勝ちだ」
 アスの朗々とした声が勝利を宣言する。受けた王は呆気に取られたような表情をはっと改め、椅子から立ち上がって声を張り上げた。
「見事! 見事じゃ! 存分に楽しませてもらったぞ。約束通り、月の紋章を遣わす!」
 王の宣言の後、割れんばかりの歓声が巻き起こる。


「へえ……キラータイガーをかるーく単独撃破とか。おもしれー」
 紫の影がベロリと舌舐めずりし、その眼球を細める。やがて影は、闘技場を横切り夕刻の紫に紛れて消えた。


3へつづく
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