LEVEL:18 三人で勇者なんだよ



LEVEL:18 三人で勇者なんだよ


 その惨状を目の当たりにした時、セシルは硬直する。アスは状況把握に身構え、ルーナはただ、立ち竦んでしまった。
 たちこめるのは煙と炎、焦げた異臭。冬の冷たい空気に覆われた城門は黒く焦げ付き、巨大な鈍器で崩したかのように抉れた跡。その下には大きな足跡、それに続く無数の足跡――以前訪れた時は、花と緑の色彩に溢れていたサマルトリア。今は、モノトーンの景観に降り注ぐスカーレッドの炎。
「街にある、地下水路から城内に入ろう」
 やっと声を発したセシルは、バチバチと微かな光の粒子を散らしながら全身の体毛を逆立たせ、腰の鞘から剣を引き抜いた。ロトの剣の刀身がギラリと青く閃く。それはまるで彼の奥底で爆発しそうな憤怒のごとく、鋭いモノだった。
「……頼む」
 何を、とは言わなかったが、アスはセシルのそれに頷き武器を抜く。ルーナも気を取り直したように頷いて、しっかりと杖を握りしめた。
「ムーンブルクの二の舞になんてさせないわ!」
「行くぞ、奪還するッ」
 アスは鋭く告げ、そこかしこで爆音の響く城下に突入する。


   ★ ☆ ★


 遠くから絶える事なく、戦闘の音がする。状況に戦慄しながら、サマルトリアの王女、ユシカは駆けていた。
「ユシカ様、こちらへ!」
 近衛兵の誘導に導かれながら、地下通路の水路沿いを進む。照明は先導が持つランタンのみ、暗く細い道は先の見えないこの状況、まさにそのものだった。この通路を抜け、とにかく逃げる事が父王の命令だった。ユシカは渋ったが、継承権二位の重みを理解して従った。
 今朝方、突然大雪が降った。冬と言う季節相応ではあるが、積る事など今まで殆どなく、尋常では無い寒さに弾んだ息が白く染まる。
「この道はどこに」
 泣きはしないが、ユシカの目はずっと恐怖に濡れたままだ。
「城下の外れでございます。そこから脱出し、とにかく安全な場所へ」
 ユシカはギュッと眉間を寄せ、こみ上げる激情を堪えてひたすら走った。それでも、その幼い身体に限界はすぐに訪れる。息が上がり、足がもつれはじめる。
 その時ゴウ、と、頬の横を炎が抜けた。髪を焦がす僅差のそれにぎょっとして振り向くと、そこには。
「魔物だ! 追いつかれた」
「姫様、御下がり下さい!」
 後方に追いついてきたのはベビル数体。近衛兵たちは即座にユシカを囲み、剣を構える。侍女は覆いかぶさってユシカを庇う。立ちはだかる兵士ともども、こちら目掛けて吐き出されたのは炎。
「……ッ」
 なんとか悲鳴を噛み殺して頭を抱え、しゃがむ。悲鳴が魔物を興奮させる事くらいは知識にあった。少しでも足手まといにならないよう、ユシカは必至で身を護る。
 次々にわいてくる魔物と、傷つき弱っていく近衛兵たち。じりじりと悪化する状況――兄は常に、こんな恐怖の中に身を置いているのだろうか。そんな事が脳裏をよぎって、ユシカは唇をかみしめた。
(わ……私だって、少しは、やればきっと……!)
 決意して、ユシカは呪文の詠唱を試みた。あまり得意ではないけれど、やれることはやらないと――! こちらに突進してきた固体に、ユシカは全力で叫んだ。
「ギラッ!」
 解放と共に放たれた閃光が魔物に直撃する。ユシカは青ざめた頬をひきつらせながら、それでも強がるように鼻から息を抜き、
「な……舐めないでよ、私だってロトの末裔なんだからッ」
 それでも好転は無かった。攻撃を受けたベビルはむくりと起き上がり、手負いから更に強い殺意をむき出しで飛び掛かってきた。
「ユシカ様!」
 気圧されたユシカは身動きできないまま、近衛兵たちも間に合わない。
「――ッ」
 もう駄目だ、そう思い、目を強く閉じた時だった。
「バギッ!」
 凛と高らかに上がった声、そして吹き抜けた風が目前に迫っていたベビルを攫って舞い上がる。
「!」
 咄嗟に魔法が放たれた方角に目をやると、そこに立っていたのは白いローブに身を包んだハニーブロンドの美女。その横を抜け、魔物に斬りかかる青い閃光。あっという間に魔物たちは地に切り捨てられていく。そして最後にひるがえったのは、鮮烈なオレンジのマント。
「お――お兄ちゃん!」
 あまりにも絶妙な登場にユシカは一瞬目を輝かせたが、兄の只ならぬ様子に気付いて息をのんだ。セシルはこちらを見ず、魔物を見据えて詠唱する。そして、
「――ザラキ」
 それは、聞いた事のない冷酷な声だった。解き放たれた呪文、大鎌を構えた漆黒の死神が舞い降り、残った魔物たちの命を無慈悲に刈りきった。
 気付けば終わっていた戦闘。絶命の残響だけが残る通路で、ユシカは微動だに出来なかった。水路の水音がやけに耳に付く。恐る恐る兄に視線を戻すと、そのオリーブグリーンの瞳は静かに凪いだまま、ただその現実を注視しているようだった。
 背筋が凍った。……誰。少なくとも、彼は知っている兄ではなかった。ユシカの知っている兄はいつだって優しく、慈悲深く等しくすべての命を愛していた。あんな深淵の眼差しをした兄は、知らない。硬直していると、その兄がころりと表情を変えて駆けてきた。
「ユシカ、無事かい!」
「あ、……」
「セシル殿下!」
 セシルはユシカと、回りを囲む近衛兵たちを安心させるようにふふりと笑む。その見知った顔にユシカははっとし、慌てて繕った。
「つ……、次に会う時は棺桶越しだったらどうしようって、ずっと心配していたのよ、お兄ちゃん!」
「言うねぇ。見ての通り無事だったよ。……説明できるかい、この状況」
 セシルはスッと表情を改めて、近衛兵に目を向ける。
「突然、魔物が大挙して押し寄せてきたのです。中でも一つ目の巨大な魔物が恐ろしく――私たちは陛下の命令で、ユシカ様を安全な場所へ」
「そうか。父上は」
「前線におられます」
「解った。君たちはユシカを連れてリリザを目指してくれ。この状況は僕たちがなんとかしてみせる」
「承知致しました」
「お兄ちゃん」
「大丈夫だよ。サマルトリアは僕たちが護る。さ、他の追手が付く前に行くんだ」
「……分かったわ。気を付けて、お兄ちゃん」
「ユシカも、君たちも。行こう、アス、ルーナ」
 セシルは強く頷いたのち、そのまま城内へと駆けて行ってしまう。数秒その背中を見送って、ユシカは呆然と立ち尽くしてしまった。
「セシル殿下。頼もしくなっておられて、驚きました」
 侍女が、ユシカの気持ちを代弁する様な一言を呟く。ユシカは頷いて、
「一緒にいたのはローレシアのアスティア様と、ムーンブルクのルナフィーリア様」
 ものすごく息の合った連係だった。あののんき者だった兄を変えたのは、きっとあの二人なのだ――。ユシカはぐっと息を飲んだのち、気持ちを切り替えて進行方向を見る。
「行きましょう!」


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